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もうかれこれ2ヶ月前のことなんだけどね。写真集「見学に行ってきた。」を印刷する際に、著者特権として印刷工場内に入れてもらったよ。 印刷工場はその性質上「大人の見学」はやっていないらしい(詳しく確認していないけど)。というのも、例えば週刊誌のスクープ記事を印刷している時に、見学者がそれを見て発売前に外に漏らしてしまっては大問題に発展するから。ましてや工場内での撮影なんてもっての他らしいのだけど、「自分の本ならいいよ」ってことで撮影させてもらいました。 でもってこの写真はハイデルベルグのオフセット印刷機。 166rpmという文字は回転数。1分間に166枚の紙を刷るってことだよ。早すぎるとインクのノリが悪かったり、反対に遅すぎるとインクがべったり付いてしまったり(そのせいで裏写りしたり、他のページにインクがついてしまうこともあるそうだ)、本によって最適な回転数があって、それを調節するのが職人技ってわけだ。 ちなみにこの機械では最大で1時間に15,000枚刷れるんだって。 オペレーターさんが印刷を確認しているところ。 家庭用プリンターなんかでは、いつ刷っても同じ色が出てくるけど、印刷用の印刷機では、前述のように回転数だけでもイメージが変わることもある。 それをオペレーターさんがゲラ(見本)のイメージに近くなるように調節しているんだ。 ちなみに、今回の本はB5サイズなので、B2ノビの紙に8枚のページを割り当て(面付け)て、一回で8ページ刷っている。 もうちょっと詳しくオペレーターさんの作業を書こう。 紙の下にイコライザーのようなものが写っているけど、これがインクをどれだけ乗せるかの調整目盛りなのだ。 カラーの印刷物というのは通常、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色(CMYKという)に分けられて、それぞれ1色ずつ「版」を作り、1色ずつ紙に色を乗せていく。色の濃さは点(網点と呼ばれる)で表現されていて、点の多い所は色が濃くなり、点のない所は紙の色が出る。だから、版自体にすでに色の濃度は設定されているのだけど、実際にはその日の湿度や気温、使用しているインク、紙の色や質などによって、印刷される色は変わってくる。それをオペレーターさんが目で判断して、3cmラインくらいでシアン、マゼンタ、イエロー、ブラック全ての色の量を調整しているのだ。 例えば今回のB2なら、24ラインのCMYK4色の設定だから、96項目のインク量を調整するわけだ。基本的には版通りに印刷すればある程度色は再現されるはずなので、全ての項目を毎回変えることはないだろうけど、刷り上がった物を見て“感覚的に”色が弱ければインク量を増やし、色が強ければインクを減らすという作業が必ずある。この色の最適化を何回で完成させるかがオペレーターさんの技術にかかっているわけだ。 一度設定を変えると、インク量が安定するまでに100枚とかの試し紙が必要になる。つまり設定変更はインクも紙も時間も無駄になるのでコストはかかるし、当然エコではない。設定変更は少なければ少ないほどいいのです。 昨今工場はオートメーション化するところが多く、作業員の仕事は機械の監視役ってところが増えてきたけど、印刷工場はいい職人さんを抱えてなんぼの世界なのだ。 これは実際に印刷する部分。内部が見れないのでなんのこっちゃだと思うけど、、、 機械の前に置かれているのが「版(拡大したもの)」。これを使って印刷しているわけだ。 通常のオフセット印刷では、版を出す際に175線というきめ細やかさで出力することが多いのだけど、今回のプリンティングディレクターを務めてくださった、十文字義美さんと、都甲美博さんが「せっかく奇麗な写真なので300線でいきましょう!」と、普通の1.7倍も細かい版を作ってくださいました。おかげで仕上がったプリントは網点が見えないのです。 参考)オフセット印刷に関して「印刷の基礎知識 オフセット印刷」が詳しい。 朝から始めた印刷立ち会いも、片面8枚が刷り上がる頃にはすっかり夜になっていたよ。両面でみっちり2日。1枚刷るのに平均4回くらいは刷り直ししたかな。。。 ちなみに、一番上に貼ってある写真はあちきの写真とは無関係っす。 表紙を印刷したもの。これにPP加工というビニールを貼る作業をして表紙は完成。 PPには光沢のあるビニールと、つや消しのマットビニールがあって、どちらの加工にするか非常に悩んだのだけど、本の内容がどちらかというと派手なので、表紙はマットにして落ち着いた高級感を出そうということになりました。 そして完成したのがこちら!(写真をクリックすると大きな画像になります。) 印刷終了から約1週間で見本が送られてきたよ。 ちなみに印刷の後行程は、断裁、PP貼り、製本、検品などがある。 といった具合に、著者としてはあちきの名前が出ているけど、「本」という形になるまでには多くの人が関わってくださっているわけです。 本という形になった後も、書店に並ぶまでには、流通の方や、問屋さん、店員さんとか多くの人が関わっていて、あちきは生涯一度も会う事のない人たちも多い。 あと忘れちゃならないのが、写真を撮らせてくださった方、写真の被写体になった物を作ってくださった方、残してくださった方たちがいて、初めてこの写真集はできあがっています。もう自分でも想像もつかないくらい多くの人が、この本の後ろにいるわけです。 そいう方たちがいて、この本が、本を買ってくださる方たちの元に届いているかと思うと、「本」というのは改めてすごいと思う。というか、考えてみたらビックリした。 なので、本を買ってくださった方はもちろんのこと、この本に少しでも関わってくださった方々全ての方に「ありがとう」なのです。 と、印刷工場の見学レポートを書いていたらやたら大きな所にたどり着いちゃった、そんな全方位感謝な「見学に行ってきた。」。 もし書店などで見かけたら、是非手にとってみてください。 書店が近くにないという方はこちらに収録している写真のサンプルがありますので、是非ご覧になってください。 書名:見学に行ってきた。 巨大工場、地下世界、廃墟…… 著者:小島健一 判型:B5判変型 ソフトカヴァー 定価:1890円(税込) 頁数:128P/本文4C ISBN978-4-12-390189-5 C0072 発行 マーブルトロン 発売 中央公論新社 こちらの既刊もよろしくです。 書籍「ニッポン地下観光ガイド」 書籍「社会科見学に行こう!」
by open_eye
| 2008-05-28 21:36
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